猶あらじ

書きたいことを書きたい時に

三番手の投手3

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夏の大会を控えた1ヶ月前に同学年のエースが肘を壊した。

痛みを発症してグランドにうずくまり、顧問の部長先生に連れられて病院へ行く車に乗り込むときには涙も見せていた。

それだけ、彼は高校最後の大会に向けて練習をしてきたし、気合も入っていた。

しかしながら、意気込み過ぎたことが肘の故障を招いてしまった。

数日後に夏の大会のベンチ入りメンバーが発表された後に、校舎の裏で「ちくしょう!!」と言いながら涙を流していた彼の姿は印象的だった。

そして、それ以来、彼の姿を野球部で見ることは無かった。

大会の試合数日前に当然ながら1年生が先発だと監督から言われていたので、試合日になってもあまり意識はしていなかった。

どうせ、自分が投げる場面は無いだろうと思っていた。

しかし、試合開始の4時間前に事態は急変した。

1年生投手の世話役が血相を変えて駆け込んできた。
「監督!!三木が腹痛でトイレから出てきません」

その言葉を聞いて、球場近くの駅に集合していたベンチ入り選手達に動揺が走った。

「理、お前が投げるんじゃねえの」
青山が意地悪な笑顔を見せつつ話しかけてくる。

「どうせ、1年のあいつがトイレから出てきて快投するでしょ」

理は謙遜ではなく、そういう結果になるだろうという気持ちで当然のように青山に返した。

そうこうするうちに、ウォーキングアップが始まり、その後に監督からスタメンが発表されると理が先発だった。

1年生投手は昨日にゲンを担いで食べた豚カツあたったらしく、投げられる状態ではないようだ。

いろいろな不幸な出来事が重なり、勝っても負けても、おそらく理にとって最初で最後の公式戦が始まった。